僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい

 その子は窓を開けて、美術室に入った。
「ごめん! びっくりしたよな?」
「大丈夫です」
「あはは、何で敬語? 俺も一年だよ」

 無邪気に歯を出して、その子は笑った。垂れた二重の瞳に、スポーツ選手を想像させるような黒い肌。それに、百七十五センチくらいの背。その子はまるで、スポーツ漫画からそのまま登場したかのような身なりをしていた。

 一年? ああ、ネクタイで気づいたのか。俺の学校は学年によって制服のネクタイの色が違っていて、一年生は緑、二年生は赤、三年生は青のネクタイをつけているから。

 ん? 俺と同い年? 

「一年なのにあんなサッカー上手いのか?」
「え、俺そんな上手い?」
「うん、すごいと思う」

 その子は頬を赤らめて、嬉しそうに笑った。一輪の花のような爽やかな笑顔だ。

「マジ? 嬉しい。ありがとう! 俺、小鳩。小鳩英輔(こばとえいすけ)
「山吹蓮夜。C組」
「俺はA組。よろしく、蓮夜」
「うん。……よろしく」
 意外とあっさり、運動部の知り合いができた。

「いやー、マジでごめん。同学年に一人コントロールがとんでもなく下手な奴がいて」
「大丈夫。えっと、なんて呼べばいい?」
 あだ名で呼ぶべきなのかも、苗字で呼ぶべきなのかもわからなくて、ついそんなことを聞いてしまった。

「英輔って呼んでくれるか?」
「わかった」

「ありがとう。小さい鳩って冴えない感じがするから、苗字で呼ばれるのは好きじゃなくて。どうせなら大きい鳩にして欲しいよな」

「……確かにアンバランスだね。名前は英輔の運動神経や見た目にすごく合っているのに、苗字だけ合ってない気がする」

「え、俺、名前と運動神経ぴったり?」

 英輔が俺の瞳をのぞきこむ。

「うん、合っていると思うよ。俺は運動そんなに得意じゃないから、英輔のこと羨ましい」

 まずい。同級生と話すのが久しぶりすぎて、何を話せばいいのか全然わからない! 話を合わせるだけで精一杯だ。話題を変えられたら、すぐに話が終わってしまう気がする。緊張して、額から汗が流れた。

「それで美術部なのか?」
「うん」
「どんな絵描くんだ?」
 よかった。話題を変えられたけど、この話なら、少しは話せる。
「果物とか植物の絵が多いかな」
「人は描かないのか?」
「うん、あんまり描かないかな」
 姉ちゃんがダンスをしている時の絵は、五年前に一年くらいの時間をかけて描き上げたけど。それが、賞を取った。