鈴香さんが帰ると、俺はすぐに弟さんの部屋に行った。
鈴香さんが帰ると、俺はすぐに弟さんの部屋に行った。
スケッチブックを開いて、机の上に置いてみる。
俺は机のそばに置いていた鞄のチャックを開けると、そこからペンケースを取った。ペンケースのチャックを開けて、シャーペンを手に取る。
絵を描こうとしたら、体が震えた。慌ててスケッチブックを閉じて、シャーペンをしまう。
「はあ……」
ため息をついて、床に寝転がる。こんなんじゃ絶対に、縄の絵なんて描けないよな。一体どうしたら描けるようになるのだろう。顔料を見た時は、描きたいって思ったのに。
ふと、机の上にあった辞典が目に入った。
弟さんの辞典が入った箱を手に取って、中身を取り出す。縄には、血は少しもついていなかった。まあ首を絞めるのに使っただけなら、血はつかないか。そもそも弟さんはどうやって、この縄を手に入れたのだろう。ゴム手袋も、八歳の子供がそう簡単に用意できるものではなさそうだよな。それに、紫月さんは両親が首を吊っているのを見たと言っていたから、弟さんが本当に殺したなら、弟さんが首を二回絞めたってことになるよな。一度目はロープを素手で持って絞めて、二度目は紫月さんに自分が殺したと思われなくなかったから、手袋をして絞めたのだろうか。多分、一度目と二度目の縄は同じものじゃない。一度目の縄はきっと、紫月さんが警察に回収させたハズだ。
あれ? なんで警察はこの縄を回収しなかったんだ? 事件が起きたら、普通家の隅々までするよな? まさか紫月さんが、この部屋の捜索を断ったのか? でもそうだとしたら、一体どうして? 一人で、部屋を調べたかったからだろうか? でも縄が見つかったのは一週間前だから、調べてはいないのか?
「はあ」
額に手を置いて項垂れる。ダメだ。自分だけで考えていても埒があかない。そもそも俺の頭はこういうことをするのに向いていない。探偵ものの小説やドラマは読んだことがないし、虐待が始まる前は絵を描いてばかりだったから。
紫月さんに質問がしたい。でも、今は弟さんの話ならなんでも地雷になりそうな気がするし、下手に聞けないよな。
紫月さんの様子見てこようかな。俺は辞典と縄を箱にしまってから、弟さんの部屋を出た。
二回ほどノックをしてから、ドアを開けて、憩いの場に入る。紫月さんは掛け布団から顔だけを出して、寝息を立てて眠っていた。紫月さんの頭をそっと撫でる。
「ん、蓮……」
紫月さんの瞳から、涙がこぼれ落ちた。弟さんの夢を見ているのだろうか。俺は紫月さんの涙を、指で拭った。
「蓮……夜」
紫月さんが目を開ける。紫月さんは一瞬俺を弟さんだと思ったかのような呼び方で、俺を呼んだ。弟さんじゃないのに気づいてくれたし、聞かなかったことにしよう。
「ごめん、起こしたね」
「いやいい」
「お義父さん、身体少し楽になった? 熱測ろうか」
「ああ」
俺はテーブルの上に置いてあった体温計を手に取って、紫月さんに渡した。紫月さんの体温は三十七度だった。下がってはいるけど、まだ平熱にはなってないな。今はお昼時だから、このまま休んでおけば、明日には下がるのかな。



