「つれねぇな。ここの部屋代と飯代奢ってやろうかと思ったのに」
「えっ。……じゃあ、行きます」
本当は行きたくないけど、それなら行かないわけにはいかない。
「アハハハ! お前金欠なのか?」
「……まぁ、それなりに」
俺はいつも漫喫に停まるためのお金と食事代を母さんからもらっているから決して金欠なわけではない。でも今日は、いつもは放課後に行っているのに朝からここにきてしまったし、お金が少し厳しいのは本当だ。
「ふーん? そんじゃ俺は一回レジに戻るから、早く会計しに来いよ」
「……はい」
俺は顔を伏せて頷いた。
食事中に虐待のこと聞かれたらどうしよう。
さっきみたいにごまかすしかないかな。
「そんなに俺と食うの嫌なのかよ」
俺が浮かない顔をしているのに気づいた紫月さんが、不服そうにぼやく。
「だ、だって店長さん俺のことすごく探ってくるじゃないですか」
「あー原因はそれか。わかった。それなら昼飯の時は何も聞かないでやるよ」
頭に手をあてながら、紫月さんは言う。
「本当ですか?」
俺は眉間に皺を寄せた。
「ああ、男に二言はねぇよ。はい、この話は終わり! 俺、今度こそレジ戻るから」
「はい。……起こしに来てくれて、ありがとうございます」
「ん。じゃ、また後でな」
俺の頭を撫でると、紫月さんはすぐそばにあった階段を降りて、四階にある受付に戻って行った。
昼飯をファミレスで食べている時、紫月さんは本当になにも聞いてこなかった。
「……おごってくれてありがとうございます」
ファミレスを出ると、俺はすぐに紫月さんに礼を言った。
「ん。蓮、LINE教えろよ」
「えっ。なんでですか?」
「だってそうすれば、いつでも一緒に飯食ったりできんじゃん」
「……わかりました」
そう言うと、俺はポケットからスマフォを取り出して、ラインを起動した。
「追加の仕方はわかるよな?」
紫月さんがスマフォを操作しながら言う。
「はい。QR読み取るんですよね?」
「そうそう。これ俺の。読んで」
紫月さんがQRコードが表示された画面を俺に見せてくる。
QRを読み取ると、紫月さんのアカウントが画面に表示された。
俺はアカウントの下に表示されている『追加』ボタンを押した。
「何か送って」
俺は紫月さんとの個人ラチャットを開いて、『よろしくお願いします、店長さん』と送った。
「はぁー。蓮、その呼び方どうにかなんねぇの? ラインでも店長さん何て言われてたら、いつか社員と間違えて仕事のライン送っちゃいそうなんだけど」
「いいですよそれくらい。別に気にしないので」
「俺が気にするんだよ!! はー。まぁいいわ。じゃあ俺仕事戻るから、お前もちゃんと学校行けよ」
「はい」
俺は細い声で頷いてから、紫月さんとわかれて学校に向かった。



