僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい



 俺は鈴香さんと一緒に憩いの場を出ると、ゆっくりと、ドアを閉めた。キッチンに着いたところで、俺は鈴香さんにあの縄のことを話した。

 大地さんに話すつもりだったけど、大地さんはこれから紫月さんの弟さんのことで忙しくなるだろうから、鈴香さんに話すのが良い気がした。


「え、店長の弟さんって犯罪者なの?」
 慌てて首を振る。

「まだその可能性があるだけで。絶対にそうとは言えないです」
「でも、その可能性はかなり高いよね?」
「はい」
 可能性が低いとは、言えなかった。

「弟さんって、蓮夜くんと同い年だよね? 確か」
「はい、そうです」
「そっか。……八歳で人殺しか。そりゃあ、店長も元気なくなるよね」
 鈴香さんは悲しそうに、顔を伏せた。

「はい。俺、お義父さんのこと元気にしたくて。それでずっと、俺なりにお父さんを励ましてたんですけど、それでも全然元気にならなくて」

「うーん、たぶんそれは、弟さんが犯罪者なのを受け入れられてないからだろうね」
「はい、俺も、そう思って。でも、だからって犯罪者なのを受け入れてなんて言ったら、きっとお義父さんは余計落ち込むだろうから、俺、励ますことしかできなくて」

「あーもう、泣かないの。ね?」
 ポケットからハンカチを取り出して、鈴香さんは俺の涙を拭った。
「はい、すみません」

「ねえ蓮夜くん、絵を描いてみたら?」
「え?」

「蓮夜くんは虐待をされてから、ずっと絵を描いていなかったんだよね?」
「はい」

「それなら絵を描いて、店長に渡してみたらどうかな。そうしたらきっと、店長は元気になると思う」

「え、俺が絵を描いただけで、元気になるんですか?」
 そんなことで、元気になるのか?

「だけじゃないよ。四年も絵を描かなかった子が、自分のために絵を描いて渡してくれることなんて、滅多にないことだから」
 確かにそう言われてみれば、そうなのかもしれない。

「でも、それで本当に元気になるのかな」
「なるよ。私が保証してあげる」
 まるで、一輪の花が咲いたかのような可愛い笑顔をして、鈴香さんは言った。