怪我をしているのに一人で病院に行ったせいか、紫月さんは翌日、三十八度の熱を出した。
俺は朝から、そんな紫月さんのためにラインで母さんに作り方を聞いて、卵おじやを作った。スプーンでおじやを一口分だけすくって、口に運ぶ。うん、大丈夫。不味くない。これならきっと、紫月さんも食べてくれる。
俺はおじやを入れたお椀とスプーンをお盆の上に置いた。お盆は、鈴香さんがここに来た時に、紫月さんがお盆をどこにしまったのかを覚えていたから、用意することができた。
お盆を持って、紫月さんがいる憩いの場まで足を進める。
「ゴホッ、ゴホゴホ」
ドアを開けて中に入ったら、すぐに紫月さんの咳が聞こえた。床にお盆を置いて、布団に潜っている紫月さんに声をかける。
「お義父さん大丈夫?」
「あ、いい匂い。蓮夜飯作った?」
布団から顔を出して、紫月さんは言った。
「うん、卵おじや作ったよ。母さんに作り方聞いて」
紫月さんはゆっくりと身体を動かして、布団から上半身を出した。
「蓮夜、そこにあるカゴの中に折りたたみ式の机が入ってるんだけど、取れるか?」
紫月さんが玩具箱を指さす。
玩具箱をのぞき込むと、そこには確かにテーブルがあった。
「これを組み立てればいいの?」
「ああ」
「はい」
俺はテーブルを組み立てると、そこにお椀とスプーンを置いた。紫月さんがスプーンでおじやをすくって、口に運ぶ。
「美味い」
満足そうに笑って、紫月さんは言った。
「よかった」
紫月さんの言葉を聞いて安心した俺は、ついため息を吐いた。紫月さんの口に合ってよかった。
「蓮夜……怒ってないか」
スプーンをお椀の上に置いてから、不安げな顔で、紫月さんは言った。
「え。何で俺がお義父さんに怒るの」
「俺昨日、蓮夜に酷いこと言っただろ。それに、俺、蓮夜が俺のことを失格だって言ったら、自殺をしようとしてたから」
やっぱりしようとしていたのか。
「それが怒る理由にはならないよ。悲しくはなったけどね。俺の価値観を覆したお義父さんがそんなことを言うところなんて見たくなかったから」
「ごめん。俺本当に、親向いてないよな」
『俺はもう蓮夜から離れないから。未来永劫』
一週間ほど前に紫月さんに言われた言葉が、頭をよぎった。
顔を伏せている紫月さんに、俺は声をかける。
「俺はお義父さんが親に向いているかどうかなんてどうでもいいよ。ただ、俺のそばから離れないで欲しい。未来永劫。……嘘にしないで」
「しない。絶対に、しない」
紫月さんが首を上下に二回動かす。
多分紫月さんも、あの言葉を嘘にしようと思って、俺に質問をしたわけではないのだろう。紫月さんはきっと、心のどこかで、俺が自殺を止めようとすることを期待していた。だってそうじゃなかったから、俺と大地さんが来る前に自殺をするハズだから。そう思っていいよね?



