「嫌だ、言わない。絶対言わない!」
紫月さんがそんなことを言う確信なんてなかった。でも今は、紫月の意志に従ったら絶対にダメな気がした。今の紫月さんは、本当に何をしでかすかも分からない。余計なことは言わない方がいい。
「……捨てろよ、こんなくそ親」
クソ親? 俺の価値観を覆してくれた紫月さんが、クソ親なわけがない。
「嫌だ。お義父さんが良い人なのは、俺が一番よく知っているから!お義父さんは、クソ親なんかじゃない!」
俺がそういった途端、紫月さんは俺の肩に顔を埋めて、赤ん坊のように泣き喚いた。紫月はそのまま、一時間ほど泣いた。
泣き止んだ紫月さんが、俺の服を掴んだ。
「ごめん蓮夜。俺、どうかしてた。本当に、ごめん」
紫月さんが申し訳なさそうに顔を伏せる。首を振って、俺は笑った。
「大丈夫。気にしないで。お義父さんが正気に戻ってよかった」
「すみませんでした、ガキみたいなことをして」
弟さんがいるベッドのそばにいた看護師と医者に、紫月さんは声をかけた。医者は九重先生だった。
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫だよ」
看護師と九重先生はすぐに首を振った。
「気にしなくていい。義勇が謝ることなんか、一つもないから。義勇、葬式の手続きは俺が進めるから、お前は怪我を治すことと、自分の身体を休めることに専念しろ」
紫月さんが目を見開いて、大地さんを見る。
「え、でも」
「今はゆっくり休め。自分の心のためにも、蓮夜くんのためにも」
「はい、ありがとうございます」
大地さんの提案に、紫月さんは下を向いて、渋々といった様子で頷いた。



