「じゃ、行こうか」
 大地さんが歩き出そうとすると、女子高生が大地さんに声をかけてきた。

「あの、KING Fortyの大地さんですよね? 私、KING Forty凄く好きで! 握手してくれませんか?」
「ああ、ごめん、今日は連れを迎えに来ただけだから、握手はちょっと。君に握手したら、他のみんなもしたくなっちゃうから」

「あ、そうですよね。すみません」

 頬を赤くして、女子高生は顔を伏せた。女子高生の周りには、十人以上の女の子が集まっていた。

「声かけてくれてありがとう。嬉しかったよ。あ、俺がここに来ていたことは、内緒にしておいてね。みんなにもお願いできるかな」

 喋り方がとてもチャラかった。

「はい!」
 声を上げて、女の子達は頷いた。

 セダンの車は、学校の近くのコインパーキングに止められていた。
 ん?
 車の後部座席には、誰も座っていなかった。可笑しい。俺が学校に行くようになってからは、紫月さんは毎日後部座席に座って、俺と大地さんが来るのを待っていたのに、何で今日はいないんだ。もしかして、助手席に座ることにしたのか?

 大地さんが勢いよく、運転手席のドアを開けた。車の中に、紫月さんはいなかった。大地さんは俺が助手席に座ってシートベルトを締めると、すぐに運転手席に座って、ドアを閉めた。

 大地さんは大急ぎで、紫月さんの弟さんが入院している病院まで車を走らせた。

 面会の手続きを済ませて弟さんの病室に行くと、やっぱりそこには紫月さんがいた。

 紫月さんは弟さんの胸に顔を押し付けて、嗚咽を漏らしていた。そして、弟さんの顔には、白い布がかけられていた。弟さんは亡くなった。紫月さんに真実を何一つ教えないで。