放課後を告げるチャイムが鳴ると、俺はすぐに鞄を持って教室を出た。

「はぁ……」
 ため息を吐きながら、校門に向かう。

 紫月さんが元気じゃなくなってから、一週間が過ぎてしまった。どうしたら元気になるのだろう。弟さんが目覚めないと、元気にならないのかなぁ。もしそうなら、きっと、一生元気になれないよな。大地さんに相談したほうがいいのかな。あの縄のことを勝手に大地さんに話したら、紫月さんに怒られる気しかしないけど。

「蓮夜くん」
 校門にもたれかかっていた大地さんが、俺に声をかけてくる。大地さんはサングラスをかけていて、茶色いハットをかぶっていた。

「大地さん! いつもすみません」
 俺は大急ぎで、大地さんの隣に行った。

「いや、気にしなくていいよ。そんなに手間じゃないから」
「ありがとうございます」

 俺が学校に行くようになってから、大地さんは、放課後はいつも校門前で俺のことを待ってくれている。何でも、姉ちゃんの彼氏が俺に危害を加えるのを未然に防ぐために、紫月さんが大地さんに、俺のことを待ち伏せするように言ったらしい。


 紫月さんはこんな風にして、元気がないわりに、ちゃんと俺の世話を焼いてくれている。今だって多分、あのセダンの車の後部座席で、俺と大地さんが来るのを大人しく待っている。


 紫月さんは元気がなくなったこと以外は、何も変わってない。そんな紫月さんを見ていると、俺は余計不安になる。本当は泣きたいのに、叫びたいのに、俺の前だから何ともないふりをしているのではないかと思ってしまう。俺が紫月さんに頼りっぱなしだから、紫月さんは俺に、弱いところを見せようとしてくれないのではないかと思ってしまう。


 紫月さんは今まで何度も、俺の前で泣いてくれたり、俺に本音をぶつけたりしてくれた。それでも怖くなる。俺には大地さんみたいに紫月さんを子供のように扱うことも、弟さんのように紫月さんが、年下だけど唯一甘えられるような存在になることもできないから。