僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「はい、おしまい。そんじゃあ俺仕事戻るから、お前も部屋に行け。腕あんま動かすなよ?」
 包帯を巻き終わると、紫月さんはそう言って目尻を下げて笑った。
「……はい。ありがとうございます。他のスタッフの人にも礼言っといてください」
 俺は細い声でそう言った。
「ん、言っとく」
 俺の頭を撫でてから、紫月さんは椅子から降りて休憩室のドアを開けた。
 鞄を持って紫月さんと一緒に休憩室を出ると、俺はすぐに五○一号室に向かった。

 五○一号室に入ると、俺はすぐに靴を脱いで、鞄を部屋の隅に置いてマットに寝転がった。
 紫月さんって変な人だよなぁ。客の怪我の手当はするし、客のプライベートのことをなんでも聞き出そうとしてくるし。
 なんでそんなことをするのだろう。
 俺が話したがらなさすぎだからかなぁ。
 たぶん、俺がプライベートのことを簡単に話せるような奴だったら、紫月さんもあんなに聞き出してこないのだろう。

 あるいは俺が紫月さんを邪険に扱うことができていたら、紫月さんも聞くのは止めようって思ってくれたのだろうか。

「はぁ……」
 紫月さんの言う通りだ。
 あんなよそよそしい態度じゃ、何かあるって言っているようなものだよな。
 俺が、紫月さんを簡単に騙せるくらい演技が上手かったらよかったのに。まぁ、そんな奴には一生なれる気がしないけど。


「ふぁーぁ」
 考えごとをしていたら、眠くなってきた。
 悪夢のせいできちんと眠れなかったからか。……寝ちゃおうかな。


「蓮夜ー? 蓮!!」
「うわっ」
 俺はドア越しに紫月さんの声を聞いて、目を覚ました。慌てて鍵を開けて、引き戸のドアを開ける。

「おはよう」
 紫月さんが笑ってそんなことを言ってくる。
「……おはようございます。何ですか」
 俺は浮かない声を出して、紫月さんに挨拶を返した。
「十一時半になっても受付に来ないから、様子見に来てやったんだよ。ずいぶん寝ていたみたいだな? イビキがよく聞こえたぞ」
「えっ」
 え、俺、いびきかいていたのか?
「ハッ。嘘だよ嘘。本当にお前はからかいがいがあるな」
「……俺、紫月さんのそういうところ嫌いです」 
 そう言って、俺はそっぽを向いた。
「ごめんごめん。ところで蓮さ、昼飯どうすんの?」
「コンビニで買うつもりです」
「じゃあこれから俺と飯食いに行かないか? 俺、もうすぐ休憩時間なんだよ」
「えっ。……嫌です」
〝虐待のことを探られそうなので〟とは敢えて口にしなかった。