紫月さんの悲鳴が大きかったからか、駐車場の出入り口に人が集まり始めた。
「ねえ、警察呼んだ方がいいんじゃない?」
「あれ、やばいよね?」
紫月さんと姉ちゃんを見て、人々は口々に言った。
騒いでいる人のうちの何人かが、スマフォを操作する。警察に連絡をしようとしているのだろうか。
「お母さん、多分あの人達警察呼ぼうとしているので、止めてください。……今警察を呼ぶのは得策じゃないです。呼んでも、こいつは逮捕されません」
紫月さんは突然、とんでもないことを言った。
「え、どうしてですか? 飾音が逮捕されないのは、紫月さんの本意ではないですよね?」
「……俺が『警察に暴力を受けたことを話したら、蓮夜にひどい怪我を負わせる』と脅されるからです。暴力を受けたという証言だけでこいつが逮捕された場合、この脅しは無意味だ。でもそうじゃない場合は、無意味じゃない」
「さすがお兄さん! 話が早いですね!」
姉ちゃんが声を上げた。
つまり姉ちゃんの望みは、自分が警察に逮捕されないことか、もしくは自分が警察に目をつけられないことなのか?
クソ。俺が姉ちゃんに反抗できるくらい強かったら、姉ちゃんがそんな内容で紫月さんを脅そうと考えることもなかったのに。悔しさで喉が焼けそうだ。
「お母さん、言いに行ってください」
「……わかりました」
母さんが俺たちから離れて、駐車場の出入り口に行く。
「あの、全部見なかったことにしてくれませんか。お願いします、あの子は私の大事な愛娘なんです。あの子は私が責任を持って交番に連れて行きますので、どうか今は、彼女を通報しないでください」
母さんが、駐車場のそばに群がっている人達に頭を下げて言う。紫月さんが言ったことからして、『交番に連れていく』は嘘だろう。
母さんが土下座をした。この土下座は、俺がこれ以上怪我をしないためにしたものなのだろうか? それとも、姉ちゃんが逮捕されないためにしたものなのだろうか? 後者じゃないといいな。姉ちゃんのためじゃなくて、俺のための土下座であって欲しい。
母さんは、ずっと俺の味方でいて欲しい。あんな姉ちゃんに母さんがとられるのだけは、絶対に嫌だから。
母さんが切実にお願いしたこともあって、駐車場のそばにいた人は、みんなスマフォをしまった。



