「ノンアルコールビールと、アイスティーです」
また、店員が来た。店員はジョッキを二つと、コップを一つ、テーブルに置いた。
紫月さんはジョッキを一つ母さんに渡した。
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、ビールでよかったですか?」
「はい、大丈夫です」
「ほら、連夜」
紫月さんが俺にコップを渡してくる。
頼んだ覚えがなくて紫月さんを見ると、紫月さんは笑って、飲んでいいよと言ってくれた。姉ちゃん分の飲み物は頼まなかったのだろうか。
食べかけのつくねを皿の上に置いて、紅茶を受け取る。空気が悪いせいか、飲んでも全然美味しいと思えなかった。
俺が飲んだのを確認してから、紫月さんはビールを一口だけ飲んだ。
「私の分は頼んでくれなかったんですね」
「俺があんたの分を頼んだら奇跡だ」
「そうですか。じゃあいいです。……蓮夜、頼んで」
「えっ! ね、姉ちゃんが、頼んで」
「は? あんたが一番、タブレットのそばにいんのに?」
確かに俺も近いけど、母さんも俺と同じくらい近くないか? 姉ちゃんは明らかに嫌がらせで俺に頼んでいた。
「蓮夜」
姉ちゃんが、まるで陶器人形が笑っているかのような不気味な笑顔を浮かべて俺を呼ぶ。怖くて、タブレットをつい触ってしまった。
紫月さんが俺の腕を掴んで、タブレットから離れさせる。
「おい、何もするなって言ったよな?」
「してないですよ? ただ蓮夜がタブレットのそばにいたから、頼んだだけです」
「蓮夜はお前が声を出すだけで脅えているんだ。蓮夜に話しかけるな。せめてお母さんに頼め」
「飾音、何頼む?お酒?」
母さんが首を傾げる。
「ええ、甘いお酒がいいわ」
母さんは姉ちゃんの指示通りにタブレットを操作して、みかんのお酒を注文した。
姉ちゃんのお酒がテーブルに置かれたところで、紫月さんは口を開いた。
「……お母さんは、蓮夜が家を出た日の前日に起きたことを、どこまで知っていますか?」
「すみません。私は蓮夜が飾音と喧嘩をしたことしか知りません」
母さんは嘘をつく人じゃないから、多分本当に何も知らないのだろう。
「蓮夜、言えるか?」
「はい。……俺は、姉ちゃんとその彼氏に倉庫に連れ込まれて、暴行を受けた。それはただの暴行じゃなくて、傷口の上に煙草の火を押し当てられたりとか、手足を縛られた状態で殴られたりとか、本当に酷いもので。姉ちゃんはひたすら暴行をした後、俺をクローゼットに閉じ込めて、そこから半日ほど、食事を与えずに放置した」
母さんが口を手で覆って、姉ちゃんを見る。
「それで間違いないな、クソ姉」
「はい、間違ってはいないです。よく言えたわね、蓮夜。褒めてあげる」
明らかに舐められていた。
「飾音、あんた、自分が何をしたかわかっているの?」
「ええ、わかってるわ」
母さんを見て、余裕そうに姉ちゃんは笑った。
「分かっていないでしょう! なんで、どうして!
昔のあんたは、すごくいい子だったのに!!」
母さんが涙を流して、我を忘れて叫ぶ。



