紫月さんがテーブルにあるタブレットを操作して、料理を注文する。タブレットはテーブルの奥側にあるから、俺と紫月さんが席を交換した方が注文をするのが楽なのに、紫月さんは全然席を交換しようとしなかった。多分俺が手前側にいたら、姉ちゃんに暴力を振るわれるかもしれないと思っているのだろう。俺はタブレットを動かして、紫月さんのそばに置いた。
注文を五つくらいしたところで、紫月さんは口を開いた。
「お母さん、急に呼んだのに来てくれてありがとうございます」
「いえ。あの、紫月さんと蓮夜は、どのような関係なんですか?」
「俺は漫画喫茶の店長をしていて、蓮夜は俺の店の常連です」
「紫月さんがあそこの店長だったんですね。いつも蓮夜が夜遅くまで利用していてすみません。ご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「いえ、蓮夜はいい子なので、俺に迷惑は一度もかけていませんよ」
首を振って、紫月さんは言う。
紫月さんを見て姉ちゃんは口を開く。
「お兄さん、そんな嘘、言わなくていいですよ」
俺は紫月さんの手を握るのをやめて、両手で頭を抱えた。
「あ?」
「学生で稼ぎのない蓮夜を匿うのは大変でしょう。蓮夜が今着ているその服だって、お兄さんが買ってあげたものですよね?」
「だから何だよ」
「それなのにどうして、迷惑じゃないなんて言えるんですか? そこにいる犬のせいで、確実にお金が減っているのに」
犬?
「お前、いい加減にしろよ!」
紫月さんが立ち上がって、姉ちゃんの胸倉を掴もうとする。紫月さんはさすがに店の中でやるのはダメだと思ったのか、ため息をつくと、手を下ろして、ソファに座り直した。
「飾音、口を慎みなさい。ここは家じゃないのよ」
「家だったら言っていいわけ?」
「いいわけないでしょう! 蓮夜は貴方の弟なのよ?」
母さんが声を荒げる。
「でもその蓮夜が、私の人生を滅茶苦茶にした」
そうじゃないって言いたかったけど、怖くて声を出せなかった。
黒い皿を持った店員が、テーブルのそばにくる。皿には、焼き鳥が二本ずつ置かれていた。
「つくねと貴族焼きです」
店員は俺達の険悪なムードを察して、焼き鳥をテーブルに置くと、そそくさとその場を離れた。焼き鳥には、誰も手をつけようとしなかった。
「お前自身が、お前の人生を滅茶苦茶にしたんだろうが」
紫月さんが姉ちゃんを睨みつける。
「違います」
「いや、そうなんだよ」
紫月さんが俺を見る。
「蓮夜、お腹減っただろ? 肉食べてていいからな」
紫月さんが焼き鳥の入った皿を、俺の前に置く。
紫月さんは姉ちゃんには常に怖い顔を向けていたのに、俺には天使のような穏やかな顔を向けていた。扱いの差が恐ろしすぎる!
「あ、ありがとう」
俺が少しだけ頭を下げると、紫月さんはニコッと笑った。
俺が頭を下げると、紫月さんはニコッと笑った。
俺はつくねを食べながら、紫月さん達の会話を聞いた。



