僕を、弟にしないで。僕はお義父さんの義息子になりたい


「蓮夜、スマフォ貸して。俺、連夜のお母さんに電話かけてくる」
「はい」
 ズボンのポケットからスマフォを取り出して、紫月さんに渡す。紫月さんはスマフォを受け取ると、すぐに店を出て行った。

 独りになってしまった。

「あ」

 棚に置かれているスケッチブックを見て、俺は足を止めた。そういえば、スケッチブックは二冊とも、家に置いてきてしまったんだよな。姉ちゃん、また絵破いてないといいけど。……破られている気しかしないな。

「蓮夜、スケッチブック買うか?」
 突然、後ろから声をかけられた。驚いて振り返ってみると、目の前に紫月さんがいた。
「うわっ。驚かさないでくださいよ!」
「あはは、ごめん、ごめん。蓮夜のお母さん、串焼きでいいって。姉には内緒で来るようにとも言っといた」

「ありがとうございます」

「ああ。それじゃ、レジに行くか」

 紫月さんがスケッチブックを棚から一つとって、レジに向かおうとする。

「紫月さん、いいです。買わなくて大丈夫です」
 腕を掴んで、紫月さんを引き留める。

「遠慮するな」

「……俺、買ってもらっても、絵、描くかわかりませんよ?」
「それでもいい。俺がお前のために買いたいだけだから」
 俺が腕から手を離すと、紫月さんは今度こそレジに向かった。

「蓮夜、はい」
 店の出入り口のそばで会計が終わるのを待っていた俺に、紫月さんが声をかける。スケッチブックが入った袋を俺に差し出して、紫月さんは笑った。
「ありがとう、ございます」
 ぎこちなく礼を言って、指が折れてない方の手で袋を受け取る。
「絵を描いたら、一番に俺に見せてくれ」
「はい」
 力のない声で、俺は頷いた。
 俺はまた絵を描けるようになるのだろうか。描けるようになりたいな。