少しずつ寒さを運んできているとある秋晴れの日、私は一人の人物をホテルのラウンジで待っていた。

彼を見つけた瞬間、やはり速まる鼓動。
私はそれに気付かないフリをして立ち上がる。

真ん中でサイドに分けられた清潔感のある長めの黒の前髪に、端正な顔に相応しい長身を持ち合わせていようが、スーツ姿で抑えきれない大人の魅力がダダ漏れていようが、揺らいではいけない。

「美優さん、お久しぶりです。お待たせして申し訳ないです」

柔らかく微笑んで久々に名前を呼ばれようが、堂々と言うの。

「桐人君、お久しぶりです。私も今着いたばかりです。お話したいこととは、まず各務グループに就職することになりました」

「各務ですって……」

ピクリと上がった眉と先程まで大きかった精悍な目が細くなろうが、たじろいではいけない。

「美優さんはお身体弱いでしょう?心配です」

「大丈夫です。それに働いてみたいんです」

優しい気遣いをされても靡いてはいけない。

「仕事は体力が必要ですよ。不整脈と喘息のせいで体育すらまともに受けられないくらいですから、今すぐ辞退した方が良いかと」

低い声でどんな言葉を投げ付けられても引いてはいけない。
最後まで言い切るまでは。