そんなことを思っていたな~とバスの中で止まっていた
思考を起動させる。

だけど、酔ったせいか吐きそうになる。
耳から聴こえる音楽は、遠い鐘が鳴ってるみたい。

「東高校前です。」

運転手の声が聞こえた。

バスを降りると友達(美記)が駆け寄って来た。
「おはよう」
笑顔で言う。

美記が
「おはよ~。昨日の現代古文のプリントやってきた?」
ときいてきた。

「ん~、なんとか~」
と返す。

「あの先生さ~、宿題多くない?」
「てか、昨日のバラエティー見た?」

一人でしゃべりだした。
私は、いつも会話しない。

美記のことが嫌いなわけじゃない。

私が喋らない、ただそれだけ。

美紀とはクラスが違うので、教室の前で別れる。

「おはよ~。」

クラスメイト達にあいさつをする。

荷物を置くと、日頃自慢ばかりしているクラスメイトに話しかけられる。

「昨日、告白されてさ~、どう断ればいいと思う?
 デートにも誘われたんだけどww
 てか、今日の朝ベンツで学校きたんだけど、目立ってしょうがなくてww」

返事をするのも億劫なので、トイレに行く。

すると、クラスでは親友とされている友里と鉢合わせる。

「おはよ~、私今日さ~、具合悪くて体育できるかな?
 千春はいいよね~、体強くてww
 熱、はかったら36・9あって、やっぱ休んだほうがいいよね?」

全然できるでしょという言葉を飲み込む。

「そうだね」

短く返す。
早く帰りたいと思った。

ウザイ  キライ  アマエルナ

その言葉が頭の中をグルグルまわってる。

教室に帰り、Twitterで呟く。

〔クラスメイトがウザイ〕

いいねがとんでくる。

いつも、同い年のさくらんぼちゃんや年上のしゆろんさんなどと会話してる。

〔いや、めっちゃそれ!〕

〔大変だよね、めんどいし〕

一人でも共感してくれる人がいると報われた気分になる。

一限目は体育だった。

〔体育ダルイ~、行ってくる~]

〔いってら~〕

しゆろんさんが反応した。

スマホをしまい、バックをとりに行った。
そのまま走って、更衣室まで行った。

今日は3kmの持久走だった。

私は、走っているとき肩が痛くなる。
なんていうのかな、肩に管を通されて、その管から空気をおくりこまれる
みたいな感じ。

いたい。

筋肉が痙攣してると思った。
でも、この肉体は私じゃないと思った。

魂って、肉体全部じゃなくてもっと、ずっと深く埋め込まれているものだと思う。
人は死ぬときその肉体から解放される。

重いコートが脱げたみたいに。

2限目は数Aだった。

授業はいつも聞かない。
聞いたところで分かんないし。

ぼんやりと窓の外を見ながら推しのことを考える。
今日は生放送の日だった。

帰りのバスに乗りながら音楽を聴く。

ずっと耳にイヤホンをさしていたせいで、耳の穴がいたい。
それでも、音楽を聴きながら家に帰った。

ベッドに体を投げ出し、インスタを見る。
Twitterで推しが呟いていないか確認する。

〔今日の生放送楽しみすぎる!〕

〔それな!生放送滅多にないもん!〕

〔やばい!テンション上がりすぎて、机に足ぶったんだけどww〕

〔ぴえんじゃんwwだいじょうぶそ?ww〕

みんながすでに呟いてたのでそれに同意する。

ネットの世界は楽だと思う。
余計なことは隠せるし、自分の実態は知られないし。

そろそろ生放送の時間だった。
Twitterを落とし、イヤホンを差し込む。

アプリを起動させ、自分の脳から推し以外のことを消す。

推しはいつも光ってる。
自分の底から輝きをだしている。

その輝きに惹かれてみんな集まってくる。
エサを欲しがっている魚みたいに。

生放送が終わると、風呂に入る。

湯舟につかっていると体が重くなる。

熱が有り余っていると思った。
この熱を外に出してしまいたいと思った。

風呂を出ると、髪も乾かさずに推しの動画を見ながら寝落ちした。

これが私の幸せだと思う。

一生こうやって生きていきたい。

だれにも迷惑かけずに一人で推しのことだけを考えて生きていきたい。