こんなやり取りもここへ来てもう何度もして来たことだ。
『…五男のバッカス・ハワードだ。よろしく』
『…体調不良だ。腹が減った』
『…!ありがとう、咲良』
ふと、バッカスの自己紹介や初めて廊下で蹲っていたバッカスに遭遇したあの時のことが思い出す。
必要最低限のことのみしか口にせず、さらには無表情なバッカスには正直ヘンリー並みに何を考えているのかよくわからない印象があった。
それが今ではだいたいのことがわかるから私も成長したよね。
「…咲良、もう、俺は」
黙ったままそんなことを考えいると今にも力尽きそうな声のバッカスがそう私に訴えて来た。
…忘れていた。
「はーい。バッカス。ナイトメアのチョコレートでーす」
「ああ、咲良。咲良は命の恩人だ。この恩は一生忘れない」
「あー。はいはい」
本当に真面目に冗談抜きで私を見つめるバッカスに私は軽く返事をする。
何度バッカスに一生忘れられない恩を与えて、恩人認定されてきたことか。
「咲良」
「ん?」
「俺はお前が好きだ」
「そりゃどうも」
真剣な眼差しで私が〝好き〟だと言っているバッカスだがその好きの意味は友情や恩人に向けられるものなので全く何もときめかない。
初めの方は実質告白じゃん!違うってわかっているけど心臓に悪いわ!って思っていたけど。



