私はまずはその人物の元へと行くことにした。



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「随分自分の欲望を楽しんでいたみたいだな」


図書館へやって来た私を見てヘンリーはおかしそうに笑う。

私がこの状況で頼れると判断した相手はヘンリーだった。
ヘンリーはそもそも私と一緒でここへの長居を反対していた。
ヘンリーなら帰りたいと思っているはずだ。


「…まぁ、帰りがたくなるほどには楽しかったよ」

「そうか。で、帰りたくなったのか?」

「最初からそのつもりだったんだけどね」

「この本の呪いはなかなかすごいだろう?まして人間の君が抗えたこと自体に俺は驚いているところだ」


苦笑いを浮かべる私をヘンリーは興味深そうに見つめている。


「人間は欲望に弱い生き物だ。ここはそんな欲望を満たす世界。普通の人間ならここから帰りたいなんて思えない」


面白いものを見るようなヘンリーの目。

全ての人間を見下している気持ちと私への意外性がひしひしと伝わってくる。