「だ、大丈夫です」

不思議、慶さんに抱きしめられて嫌じゃなかった。

今までは身体が拒否反応してたのに、今は慶さんの名前を口にしてドキドキした。

その瞬間、抱きしめられた事が嫌じゃなかった。

なんだろう、この気持ち。

「じゃ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

そして、慶さんは仕事に出かけた。

私も月曜日に休みを貰って、火曜日から仕事に行った。

私は戸倉美鈴になった事、引っ越しした事を上司に伝えた。

慶さんはちょっとした有名人だと言う事を初めて知った。

羨ましいじゃなく、なんで私みたいな冴えないアラフォーが戸倉慶と結婚出来たのと妬みの視線が痛く突き刺さった。

ただでさえ、四十歳を迎えて、職場に残る事が難しい状況で、戸倉建設社長夫人になったのに、なんでまだ働いているのって、あちこちからひそひそ話が、私に重くのしかかって来た。

仕事から戻って、夕食の支度をしていると、慶さんが仕事から帰宅した。

「ただいま、美鈴」

「お帰りなさい」