お店を出て何処かに電話を掛ける紘。その後、直ぐに駆け付けて来たのはタクシー…ではなく普通車。
…っ、これって。
私はこの黒い車を知っている。何故ならこれは、”ヒロ”のマネージャーさんがよく迎えに来る時に乗っているやつだから。
「っ!ちょっと!あたしはアッシーじゃないのよ!?」
乗り込む紘にそう叫んだ、黒髪ボブな女性。
「うるせーな」
「タクシー拾いなさいよ!?」
「ジジィ共が紬を見てくっから無理」
「はぁあ!?って!紬さんじゃない!大丈夫!?」
そう言うのは、ヒロのマネージャー。
象山 加奈恵さん。
バリバリのキャリアウーマンって感じの方で、私の事もよく気に掛けてくれる優しい人。
「……だ、だいじょうぶです…ありがとうございます…」
「まあ!なんていい子なの!?いつか紬さんみたいな子を産んでやるんだからぁ!!」
「どうでもいいからさっさと出せ」
象山さんは最近結婚したばかり。
私の顔を見るたびにそんな事を言ってる。
「はああ!?それが人に物を頼む態度!?
”お願いします。加奈恵様”ぐらい言いなさいよ!」
「テメェにそんな事言うわけねぇだろーが」
「はあああ!?あんた!あたしが今日どんだけ大変な思いしてる事か!!あんたのせいでまた旦那との時間潰れるかもしれないのよ!?」
「ダブルブッキングしたのはテメェのせいだろうが」
「何よ!全部あたしのせい!?……まっ!その通りなんだけど!」
「開き直る前に、さっさと俺の家に向かえ」
ギャアギャアと賑やかな車内で私は気にせず目を閉じた。
その後、二人の言い争いをラジオ感覚で流し聞きしながら眠りについた。


