叩いた拍子に紘の飲んでいた珈琲カップが真っ逆さま。
ガシャン!と大きな音が店内に響き、客や店員の視線は一斉に私達の方に向いた。
「ふざけんな。俺よりあいつ等がいいってか?」
「ひ、ひろ?」
突然の事で困惑していると、
「お客様!」
慌てて、走ってくる男性が声を掛けてきた。
「大丈夫でしょうか!」
黒いエプロンに付いている名札らしきものには、店長の文字。
大丈夫…?
その言葉の意味が分からず、店長さんの視線の先を追うと、そこは紘の足元で。割れた珈琲カップと濡れた紘の足首。
熱々の珈琲と、割れたガラス。
「っ、あ、あのすみません。拭く物、貰えますか?」
「はい。ただいまお持ちいたします!」
そう言って走っていく店長さんを横目に紘に近付いた。


