「俺の事知らねーのか?」


「あ゛?興味ねぇよ。いいからさっさと消えろ。紬がまた喘息起こすだろうが」


「は?喘息?」



先輩が私を見たが、すぐに紘が背中を向けたので見えなくなった。



「俺は何も…」


「煙草の匂いがすんだよ。てめぇから。

かっこつけてるつもりかどうか知らねぇが…それが原因で紬が発作起こしたんだ。


もう二度と紬に近付くんじゃねぇ」



……ひろ。
怒らないで。

手を伸ばす。触れる髪先が冷たいような気がした。



「…もっと食えよ。軽すぎて心配なんだろ」



歩き出した紘が言った言葉。
…あの時と似てるね。


重なったのは小学生の頃の紘。ピンチになったら必ず来てくれるヒーローの事。


”もっと食わねーと。弱いままだぞ、紬”


私が高学年に絡まれていた時も助けてくれた。細い木の棒一本で、小学六年生数名相手に立ち向かった。


…小学三年生が簡単に勝てるわけないのに。

ボロボロになっても、立てなくなった私を背負ってくれた。


いつからだったかな。
抱っこの仕方が変わったのは。


背伸びしても届かないぐらい大きくなったのは。



プツン、
意識が途切れた。