トイレから出て一息。
そんなに時間が掛ったわけではないけれど。
…実くんに怒られる前に戻らないと。
それに、みんなも私を待ってるはず。
しっかりとポーチの中身を見て、全て揃っているのを確認した。
前に吸引器を一つ落としたことがあった。
あの時は、紘が見つけてくれて助かったけど…毎回甘えてばっかりは駄目だから。自分で確認して、自分で対処できるようにして行かないと。
実くんに言われてハッとした。
私は五人に甘えすぎてるんだって。自覚はあったけど…人に言われるのと自分で思うのはやっぱり違うんだね。
洗った手をしっかりハンカチで拭いて、廊下を歩き出す。目指すは生徒指導部。
「待て!」
背後からの声に驚きつつ、振り返る。
茶髪をポンパドールにした男の人がいた。
ワイシャツのボタンを全て外していて、赤色のTシャツが覗いてる。ズボンには銀色のチェーンみたいなのが何処かに繋がっているみたい。
髪型も自由で、制服のアレンジはも自由って聞いてたけど…ここまで着崩していても大丈夫なのかな?
……誰だろう?
もしかして私に話しかけたわけじゃないのかも?
そう思い、歩き出すとその人は「待ってくれ!」と叫び、私の方に小走りで近付いてきた。
どうやら私で合ってたみたいだった。
声に驚いて一歩ずつ後退りする。
「あ…ちょ、ごめん!怖がらせるつもりは無くてさ!?」
慌てた様子で左右に大きく手を振っている。
「俺は狛犬 律!2年B組の!」
…2年生の、先輩?


