悩んでいると実くんが大きな溜息を吐いた。

…あ、もしかして。
私のせいで迷惑してるの?


「鷹埜先生、私…」


大丈夫です、と言う前に。


「来なさい」


腕を引かれ立ち上がる。突然過ぎてふらりとした私の体を抱き寄せる実くん。

ラベンダーの香り。
私の好きな花の匂いだった。


「流石に抱えて歩くわけにはいかないので。歩けますか?」

「…は、い」


顔を上げると実くんの綺麗な顔がある。
歩き出そうとする私の手を握ったのは傑。



「紬、おいで」



思わず胸が高鳴った。

ドラマや映画に引っ張りだこな俳優が目の前にいる。テレビで見る”スグル”が私の手を握ってる。

────────ドキドキしないわけがない。


「顔で紬を釣れば付いてくるとでも思ってるのか?」


「みの、るく…、」


肩を抱き寄せられた。
心臓の音が聞こえてくる。



「おい、」



実くんの肩に紘の手が乗った。強く握っているのか、ギリギリと私の方まで音が聞こえた。


「許可なく俺の紬に触んじゃねぇ」

「…敬語を使え。馬鹿が」


痛みで実くんの顔が歪む。


「紘、やめ…」


「紬ちゃんはこっち来ようね~?」


翔が引っ張るから、躓き気味に胸にダイブしてしまった。

五人の中で一番小さい翔。でも私からすればかなり大きい。

…154cmの私と比べて15cmも違うんだもの、大きいに決まってるよね。

昔はまだ私の方が大きかったのに。
いつの間にか負けちゃった。


「チッ…翔、紬を返してくれません?」

「ざんね~ん!早い者勝ち~!」

「ズルい。俺も紬欲しい」



…あの、私の意志は?