ぶかぶかのブレザーだった。
「っっ……、す、ぐる…?」
「おはよう。紬。遅れてごめん」
見上げた先。そこには眼鏡も掛けていない“スグル“がいた。
傑の指が私の唇をなぞる。
その位置はさっき、噛んでしまった所。
「噛んだのか?」
「え?…あっ、」
「駄目だろ?血が出たらどうする」
ジッと顔を見られ、動揺する。
だって私の目を真っ直ぐ見つめてくるから。
「す、すぐる…?」
唇をなぞる指と、茶色の瞳。
ドキッとしてしまう。
「傷になる前に消毒が必要だな」
近付く顔と声。
思わずぎゅっと目を瞑ってしまった。
「────────傑!!!」
ビクッ!!
大きな声に身体が跳ね、瞼を開けた。
驚いた表情をしていたのはふたり。
私と、実くんだけ。
「お前…俺の紬に何をするつもりだった?」
マスクを外し、私を退けてまで傑の胸倉を掴んだ凪の声はとても低かった。
縺れる足でふらり、と倒れそうになった私は、実くんに支えられる。
「ありがとう」なんて感謝の言葉を言わず、私はただ茫然と凪を見ていた。
「な…ぎ…?」
「紬!!」
またも身体がビクリと動く。
差し出される手と凪の知らない声色。
「俺の所に来い。今すぐ」


