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──────酔いに酔っているのは、雲雀紬の母親。

気持ちよく寝ていた時に電話が鳴った。
頭を抱えながらも通話ボタンを押す。


社長、と呼ばれる度に声を発する。



その隣では雲雀紬の父親が、眠気まなこで自分の携帯を手に取った。

同様に電話が鳴っていたのだ。



同じく電話に出た所で、二人同時に目を覚ました。



その内容があまりにも衝撃的な物だったからだ。



「そんな…!困るわ!ウチには病弱な娘がいるのよ!?」

「そんなの困ります!ウチは病気がちな娘がいるんです!!」



ほぼ同時の両親の声。
何度も「困る」と連発している。


「そっちで何とかして頂戴!私は行かないわよ!」

「すみません!何を言われても私は行きません!」


怒り口調が更にヒートアップする。



『申し訳ございません!こちらも最善を尽くしたのですが…どうしても社長じゃなきゃ、』

『申し訳ない!私も何度も言ったんだ。だが…どうしても雲雀シェフでないとと、』



別々の電話。しかし、どうも似たような話が聞こえてくる。



『行き先は、ロンドンです』
『行き先は、ロンドンだ』



それは同時に響いた。




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