2人の子供を持っている30代の若い夫婦は、お彼岸のため夫の実家へと帰ってきていた。


丘の日当りのいい場所に墓があり、その土手は彼岸花で真っ赤に染まっていた。


毒のある花ということで敬遠されることも多いその花を、子供は喜んでつんでいた。


「帰ったらしっかり手を洗うのよ? そのお花は綺麗だけれど毒を持っているんだから」


妻が、子供にそう言い聞かせる。


夫はそれに見向きもせず、新しく購入したばかりの車の事ばかりを考えていた。


ずっとほしくてたまらなかった車を、ようやくローンを組んで買ったのだから、それは男にとって可愛くて仕方のないことだった。


しかし、その車は1人乗りの見た目ばかりいい車で、実用性がなかった。


そのため、今回の実家帰省も妻と夫、別々の車で来ることとなっていた。


実は、出発前にそのことで夫婦はひどく喧嘩をし、険悪なムードになっていた。


せっかく家族全員が乗れる7人乗りの車があるのだから、1台で行こうと言う妻にたいし、どうしても両親と親戚たちにこの新車を見せたいという夫。


結局、喧嘩の末に妻の方が折れて2台で来ることとなった。


夫は親戚中に車を自慢しご満悦だったが、妻はその間子供の面倒を1人でみるハメになっていた。


さすがにこれではいけないと思い、姑が夫に釘を刺してくれたのだが、のれんで腕押し。


夜は酒を飲んで誰より早く寝てしまい、朝は昼まで起きてこない。


「ごめんなさいね。たまの帰省だから、我慢してやってね?」


「いいんですよ、お義母さん。気にしてませんから」


そう言って優しくほほ笑む嫁に、姑も安心していた。


しかし。


夫の酒癖は帰省したからハメが外れているわけではなく、日常的なものだった。


未だに1人で朝起きられないのも、結婚当初から変わっていない。


妻の日頃からのうっぷんは、限界に達していた。


だから。


「あの車と一緒からどこまででも行けるなぁ」


という、夫のことをうのみにしたのだ。




そして、帰宅する日の朝のこと。


「また、お正月に帰ってくるからな!」


そう言い、意気揚々とスポーツカーに乗り込む夫。


夫の車がエンジンをかけて走り出すのを見送ってから、妻は自分の車に乗った。


「どこまでも、行ってらっしゃい」


妻が小さく呟いた次の瞬間、十字路にさしかかっていた夫の車はブレーキがきかず、トラックと衝突した。


小さなスポーツカーは一瞬にしてぐちゃぐちゃに大破したのだった。