美岡杏、15歳。


絶賛いじめられ中。


今日の昼食は4時限目の調理実習で作ったカレーライス。


一旦トイレに行ってから実習室へ戻り、さぁ食べようとスプーンを持ったとき、あたしは見つけてしまった。


カレールーの中に無惨に横たわるイモリの死骸を。


いや、校内にいたならヤモリになるのだろうか?


とにかく、その、イモリだとかヤモリだとかが入っていたため、あたしはスプーンを動かす手を止めた。


そんなあたしを見ていた、クラスのリーダー的存在である女子がおかしそうに笑った。


また、お前か。


「あれぇ?美岡さん食べないのぉ?」


わざとらしくそう言い、数人の取り巻きたちと一緒に嫌な笑顔を浮かべる。


あたしはカレーの中に横たわるイモリだか、ヤモリだかを指先でつまみ、救出した。


その瞬間、悲鳴が調理室に響き渡る。


あぁ、うるさいうるさい。


女の甲高い声は苦手。


まるで、地球に下り立ったばかりの宇宙人を見るようなクラスメイトたちからの視線を感じながら、あたしはイモリだか、ヤモリだかをまな板の上に置いた。


「あいつ、なにする気?」


「知らないわよ」


そんな声が微かに聞こえる。


あたしは包丁を持ち、イモリだか、ヤモリだかを細かくみじん切りにしはじめた。


調理室のあらゆる場所から、悲鳴と嗚咽が聞こえてくる。


うん。


なかなかグロテスクだから当たり前だよね。


なれた手つきであっという間にみじん切りにしたあたしは、顔面が青くなっているクラスのリーダーの元へイモリだか、ヤモリだかを乗せたまな板を持って異動した。


「ちょっと……なによ」


強気な口調だが、必死で死骸から視線をそらしている。


「おすそわけ」


あたしはそう言うと、死骸をリーダーのカレーへと投入し、スプーンでルーをかき混ぜた。


唖然としてそれを見つめているリーダーと、その取り巻きたち。




美岡杏、15歳。絶賛シカトされ中。


「美岡さんってすごいよね、あいつらのイジメにやり返したんだって」


「なんか、あたしたちは足元に及ばないって感じ」


「遠くから見てるだけで、充分だよね~」




数日後、集団無視を苦にした15歳の少女が校舎の屋上から飛び降り、自殺した。