この場面でなにを言いだすんだ、こいつは。緊張にさらされている脳みそに、さらに混乱が投げこまれる。

氷上で向き合うような格好で、陽澄の手を繋ぐ彼の手に、わずかに力が加わった。

「———大嫌いだけど…ちょっとだけ好きだよ」
ただ自分だけを見て、自分だけを捕らえて、離そうとしないひと。この刹那、世界に自分と彼しか存在しないような、錯覚にさえ陥る。

なんだよそれ、と洸暉が視線を外して口の中でもらす。
「変なやつ」と眩しいものを見たときのように目を細める。唇の端がやわらかくほどけている。

それはたぶん、陽澄が初めて見た、彼の笑みだった。

———そうしてそれが、彼と二人で会った最後だった。