「そうですね。お義父(とう)さまもきっと今ごろ、天国でお喜びになっているでしょう」

「うん。きっとそうね」

 彼の言葉が(うれ)しくて、わたしも同意した。


 ――彼はふと、鏡の前の台に置かれたブーケに視線を移した。

「このブーケって、プリザーブドフラワーでできてるんでしたっけ」

「そうよ。半永久的に枯れないお花。わたしたちの関係も、そうなれたらいいなあと思って」

 結婚式のブーケをオーダーした時、生花(せいか)を選ぶこともできたのだけれど、わたしはこちらを選んだ。
 予定では式の後、ブーケトスで幸せのお裾分けをすることになっている。半永久的に枯れないこのブーケは、受け取った人の幸せを枯らすこともないだろうと思う。
 今日は幸い、この晴天だ。間違いなくブーケトスは行われるだろう。

「――それにしても、あの日はホントに大変だったよね」

 わたしは再び、出会た夜の話題に引き戻した。

「えっ? ……ああ、僕と絢乃さんが出会ったあの夜のことですね」

「そう、あの夜」

 わたしは頷く。二人のなれそめを語る時、あの夜の出来事を切り離すことはできない。
 まだお互いのことをほとんど何も知らず、わたしと彼は出会ったのだ。組織のトップの令嬢(むすめ)と、父親が所有するグループ会社に(つと)めるイチ社員として。

 ――二人の出会いは、今から二十ヶ月前。二年前の十月(なか)ばまで(さかのぼ)る――。