火傷の手当も済んだ頃には。
ミトンをつけずとも持てるほどに、トレイは冷めていた。
何なら、チョコマフィンも冷めてるかと思ったが。
どうやら、マフィンの方はまだ温かかった。
「ジュリス〜。お腹すいた」
「…魔導師は腹減らないだろ…」
ちゃっかり椅子に座って、足をぷらぷらさせながら。
持ってきてもらうの前提で、フォークをコンコンしているベリクリーデである。
完全に幼稚園児。
まぁ、今は手伝えとは言わないよ。手、火傷したばっかだし。
それに、ベリクリーデに手伝ってもらったら、余計な仕事増えそうだから。
そこで、大人しく待っててくれ。
紅茶を淹れ、焼き上がったばかりのチョコマフィンと、更に。
「ほら、こっちも良い感じに出来てるぞ」
「あ、キノコチョコだ!忘れてた」
「トリュフチョコな」
忘れてたか。そうか。
忘れてやるなよ。苦労して作ったんだから。
トリュフチョコも、丁度良い具合に固まっている。
仕上げにココアパウダーをかけて、完成。
皿に並べて、ベリクリーデの前に出す。
「ほら、食べてみろ」
「わーい。いただきま…せん」
「は?」
ついさっきまで、トリュフチョコにフォークを突き刺そうとしていたベリクリーデが。
直前で、ピタリと止まった。
どうした。
「何だ?何があった?」
「私、ジュリスにバレンタインチョコあげるんだった」
はぁ?
「はい、ジュリス。ハッピーメリーバレンタインイヤー」
だから、混ざってるって。
そして今は9月だ。
ベリクリーデは、チョコの乗った皿を、俺に差し出してきた。
…そういや、世話になった男にチョコレートをあげるイベント、と聞きつけて。
こんなことを始めたんだっけか。
随分遠回りしたような気がするが。
つーか、ほぼ俺が作ったようなもんなので、自分の作ったものを自分にプレゼントされても。
大して嬉しくない、と言うか。
「…もらわなくても、俺の分もあるんだけど」
俺には、俺の分あるから。
お前はそれ、自分の分食えよ。
「でもジュリスに、バレンタイン」
「分かったから。気持ちだけ受け取っとくよ」
「でも私、ジュリスの手を借りて、頑張って作ったから」
逆じゃね?
ベリクリーデの手を借りて、俺が作ったようなもんだろ。
手を借りるどころか、足を引っ張られた記憶しかない。
「はい、ジュリス。いつもありがとう」
「…」
自分の皿に乗ってるのと、全く同じものを。
もう一皿もらってしまった俺は、どうすれば良いのか。
独り占めしたみたいになってるんだけど?
…はぁ。
「そしたらお前…。自分の分なくなるぞ?」
「あ、そっか…。…でも良いや」
良いのかよ。
「ジュリスへのプレゼントだから。ジュリスにあげるの」
…そうかい。
そりゃ有り難いね。
なら。
俺は、ベリクリーデに差し出された皿を受け取り。
代わりに、俺の皿を手に取って、ベリクリーデに渡した。
「じゃあ俺からも、ハッピーバレンタイン」
「?」
「これなら、お前も食べられるだろ?」
「…!」
一応、一緒に作ったんだからさ。
お前も食べろよ。食べたがってたじゃないか。
大体、俺一人じゃ食べ切れないし。
「でもジュリス、バレンタインは、男の人に渡すイベントだって」
だから、今9月だからバレンタインじゃない。
だがまぁ、そこはバレンタインということにしておこう。
「世話になった人にも渡すんだろ?だったら、男女は関係ないだろ」
とはいえ。
俺は、お前の世話をした覚えはあっても。
お前に世話された記憶は、全く無いんだけどな。
この際、ベリクリーデにチョコレートを食べさせる為の口実になるなら、何でも良い。
とにかく俺は、一人でこれを食べるのは御免だ。
「だから受け取れよ。一緒に食べた方が美味いだろ?」
「…うん」
ベリクリーデは、珍しく嬉しそうに頷いて。
俺が差し出した皿を受け取った。
皿に乗ってるものは同じなのにな。謎の皿交換。
でも、俺達にとっては、意味のある交換なのだ。
そういうことにしておこう。
ミトンをつけずとも持てるほどに、トレイは冷めていた。
何なら、チョコマフィンも冷めてるかと思ったが。
どうやら、マフィンの方はまだ温かかった。
「ジュリス〜。お腹すいた」
「…魔導師は腹減らないだろ…」
ちゃっかり椅子に座って、足をぷらぷらさせながら。
持ってきてもらうの前提で、フォークをコンコンしているベリクリーデである。
完全に幼稚園児。
まぁ、今は手伝えとは言わないよ。手、火傷したばっかだし。
それに、ベリクリーデに手伝ってもらったら、余計な仕事増えそうだから。
そこで、大人しく待っててくれ。
紅茶を淹れ、焼き上がったばかりのチョコマフィンと、更に。
「ほら、こっちも良い感じに出来てるぞ」
「あ、キノコチョコだ!忘れてた」
「トリュフチョコな」
忘れてたか。そうか。
忘れてやるなよ。苦労して作ったんだから。
トリュフチョコも、丁度良い具合に固まっている。
仕上げにココアパウダーをかけて、完成。
皿に並べて、ベリクリーデの前に出す。
「ほら、食べてみろ」
「わーい。いただきま…せん」
「は?」
ついさっきまで、トリュフチョコにフォークを突き刺そうとしていたベリクリーデが。
直前で、ピタリと止まった。
どうした。
「何だ?何があった?」
「私、ジュリスにバレンタインチョコあげるんだった」
はぁ?
「はい、ジュリス。ハッピーメリーバレンタインイヤー」
だから、混ざってるって。
そして今は9月だ。
ベリクリーデは、チョコの乗った皿を、俺に差し出してきた。
…そういや、世話になった男にチョコレートをあげるイベント、と聞きつけて。
こんなことを始めたんだっけか。
随分遠回りしたような気がするが。
つーか、ほぼ俺が作ったようなもんなので、自分の作ったものを自分にプレゼントされても。
大して嬉しくない、と言うか。
「…もらわなくても、俺の分もあるんだけど」
俺には、俺の分あるから。
お前はそれ、自分の分食えよ。
「でもジュリスに、バレンタイン」
「分かったから。気持ちだけ受け取っとくよ」
「でも私、ジュリスの手を借りて、頑張って作ったから」
逆じゃね?
ベリクリーデの手を借りて、俺が作ったようなもんだろ。
手を借りるどころか、足を引っ張られた記憶しかない。
「はい、ジュリス。いつもありがとう」
「…」
自分の皿に乗ってるのと、全く同じものを。
もう一皿もらってしまった俺は、どうすれば良いのか。
独り占めしたみたいになってるんだけど?
…はぁ。
「そしたらお前…。自分の分なくなるぞ?」
「あ、そっか…。…でも良いや」
良いのかよ。
「ジュリスへのプレゼントだから。ジュリスにあげるの」
…そうかい。
そりゃ有り難いね。
なら。
俺は、ベリクリーデに差し出された皿を受け取り。
代わりに、俺の皿を手に取って、ベリクリーデに渡した。
「じゃあ俺からも、ハッピーバレンタイン」
「?」
「これなら、お前も食べられるだろ?」
「…!」
一応、一緒に作ったんだからさ。
お前も食べろよ。食べたがってたじゃないか。
大体、俺一人じゃ食べ切れないし。
「でもジュリス、バレンタインは、男の人に渡すイベントだって」
だから、今9月だからバレンタインじゃない。
だがまぁ、そこはバレンタインということにしておこう。
「世話になった人にも渡すんだろ?だったら、男女は関係ないだろ」
とはいえ。
俺は、お前の世話をした覚えはあっても。
お前に世話された記憶は、全く無いんだけどな。
この際、ベリクリーデにチョコレートを食べさせる為の口実になるなら、何でも良い。
とにかく俺は、一人でこれを食べるのは御免だ。
「だから受け取れよ。一緒に食べた方が美味いだろ?」
「…うん」
ベリクリーデは、珍しく嬉しそうに頷いて。
俺が差し出した皿を受け取った。
皿に乗ってるものは同じなのにな。謎の皿交換。
でも、俺達にとっては、意味のある交換なのだ。
そういうことにしておこう。


