俺は知らなかった。
俺から押し付けられたそのトマトの、行く末を。
トマトを握らされた『八千代』は、自分の部屋に戻った。
そこには、ルームメイトのユイト・ランドルフが待っていた。
「あ、お帰り令月…。…って、それどうした?」
「ただいま。これ…トマト」
「トマト?」
困惑した様子のユイト・ランドルフ。
ちなみに、学生寮は、原則水とお茶以外の飲食物は持ち込み不可である。
まぁ、その辺の規則は、実は建前だ。
イーニシュフェルト魔導学院は、甘党な学院長の方針で、規則なんて名目みたいなもの。
故に、女子生徒の中には、こっそりおやつを部屋に隠し持っている子も大勢いる。
そして勿論、男子生徒もしかり。
見つかったとしても、大して怒られることもない。
精々、「見つからないように持っとけよ」と言われるくらい。
勿論、イレースせんせーは例外だが。
それにしても。
お菓子なら分かるが、何故学生寮に、トマトを持ち込むのか。
ユイト・ランドルフの困惑した表情にも、納得である。
何故トマト?
しかも一個だけ。
「…通りすがりの幼馴染みに、もらった」
「は、はぁ…。そうなんだ…。変わった幼馴染みだな…」
今この場に、俺がいたら。
誰が誰の幼馴染みだって?と詰め寄っていたに違いない。
「多分食べろってことなんだろうけど…」
正解。
「…あげる」
「えっ」
『八千代』は、ルームメイトにトマトを押し付けた。
ツキナが俺に押し付け、俺が『八千代』に押し付けたトマトを。
『八千代』が、ルームメイトのユイト・ランドルフに押し付けた。
持ち主がどんどん変わっていく、波乱万丈な人生、ならぬトマト生を送るトマト。
「僕苦手なんだ。トマト」
「そ、そうなの…?」
「ユイトは好き?」
「まぁ、好きでも嫌いでもないけど…」
「じゃあ良かった」
ようやくトマトは、自分を食べてくれる人間に巡り合った。
それは良いとして。
「トマト嫌いなんだ、令月」
「うん、だってなんか、それ…」
次の一言を、俺が聞いていなくて良かった。
もし聞いていたら、あまりの同族嫌悪に、俺は全力でトマトを克服しようと試みただろう。
「…脳みそみたいじゃない?」
「…」
二人の人間に脳みそ呼ばわりされた、憐れなトマトは。
無言のユイト・ランドルフに、無言で美味しく食べられたのだった。
俺から押し付けられたそのトマトの、行く末を。
トマトを握らされた『八千代』は、自分の部屋に戻った。
そこには、ルームメイトのユイト・ランドルフが待っていた。
「あ、お帰り令月…。…って、それどうした?」
「ただいま。これ…トマト」
「トマト?」
困惑した様子のユイト・ランドルフ。
ちなみに、学生寮は、原則水とお茶以外の飲食物は持ち込み不可である。
まぁ、その辺の規則は、実は建前だ。
イーニシュフェルト魔導学院は、甘党な学院長の方針で、規則なんて名目みたいなもの。
故に、女子生徒の中には、こっそりおやつを部屋に隠し持っている子も大勢いる。
そして勿論、男子生徒もしかり。
見つかったとしても、大して怒られることもない。
精々、「見つからないように持っとけよ」と言われるくらい。
勿論、イレースせんせーは例外だが。
それにしても。
お菓子なら分かるが、何故学生寮に、トマトを持ち込むのか。
ユイト・ランドルフの困惑した表情にも、納得である。
何故トマト?
しかも一個だけ。
「…通りすがりの幼馴染みに、もらった」
「は、はぁ…。そうなんだ…。変わった幼馴染みだな…」
今この場に、俺がいたら。
誰が誰の幼馴染みだって?と詰め寄っていたに違いない。
「多分食べろってことなんだろうけど…」
正解。
「…あげる」
「えっ」
『八千代』は、ルームメイトにトマトを押し付けた。
ツキナが俺に押し付け、俺が『八千代』に押し付けたトマトを。
『八千代』が、ルームメイトのユイト・ランドルフに押し付けた。
持ち主がどんどん変わっていく、波乱万丈な人生、ならぬトマト生を送るトマト。
「僕苦手なんだ。トマト」
「そ、そうなの…?」
「ユイトは好き?」
「まぁ、好きでも嫌いでもないけど…」
「じゃあ良かった」
ようやくトマトは、自分を食べてくれる人間に巡り合った。
それは良いとして。
「トマト嫌いなんだ、令月」
「うん、だってなんか、それ…」
次の一言を、俺が聞いていなくて良かった。
もし聞いていたら、あまりの同族嫌悪に、俺は全力でトマトを克服しようと試みただろう。
「…脳みそみたいじゃない?」
「…」
二人の人間に脳みそ呼ばわりされた、憐れなトマトは。
無言のユイト・ランドルフに、無言で美味しく食べられたのだった。


