◼️初めての発情期

 三条君との一件があってから一ヶ月が過ぎた。

 なぜかしばらく紫音は過保護っぷりが増していたけれど、あれから三条君との衝突はなく、平和に穏やかに過ごしている。

 校内は三条派と紫音派にファンが分かれて、アイドルかと思うほど二人は毎日生徒の注目を浴びている。

 私と紫音が番を結ぶ関係だという話は、最初こそ炎上したものの、紫音ファンの生徒はみんな受け入れがたい事実過ぎて“聞かなかったこと”にしたらしく、私は今まで通り平凡な生活を送れている。

 そんな中、急遽泊まりがけの校外学習が決まった。

「えー、知ってる生徒も多いと思うが、うちでは二年生はこの時期に泊まりの校外学習をすることになっている。と言ってもただの山登りだ」

 教師がだるそうに生徒に告知すると、クラス中でブーイングが起こる。

 生徒に忍耐力と体力をつけるために……と言う理由で、この学校では超過酷な山登りイベントがあるのだ。

 噂には聞いていたけれど、ついにこの時期が来てしまったか……。

 なんて呑気に思っていると、ちらっと視界の端に映った紫音が、顔面蒼白になっていた。

「文句言うのは自由だが、不参加の生徒は進級できないと思えよ。じゃあ、ホームルーム終わります」

 無慈悲な教師の宣告に、生徒たちはさらにブーイング。だるい、暑い、やる意味がわからない、まだ持久走の方がマシ、などなど、誰ひとりこのイベントを楽しんでいる者はいない。

 紫音も山登りがそんなに顔を青くするほど嫌なのかな……? そう思っていると、紫音が私のところまでやって来て、机をバンっと叩いた。

「対策を練るぞ」

「……へっ?」

「タイミングが最悪すぎるだろ……。完全に忘れてた……あの時期のこと」

 顔を青くしている紫音を見て、頭の上に疑問符を浮かべていると、どこからか三条君もそばにやってきた。

「もしかして千帆ちゃん、発情期と被ってんの?」

「おい三条、勝手に入ってくんな」

 は、発情期……!?

 そういえば、三ヶ月に一回、Ωには等しくそんな時期がやってくるのだと聞いていた。

 その間は、できるだけ学校を休んで部屋に篭っているべきだと資料には書いてあったけれど……。この行事に参加しないと、留年は確定。