実際この前教室で襲われそうになった時は、目に血を走らせて助けに来てくれた。

 多分紫音は、私に何かあったら、自分のことを全く顧みずに助けに来てしまうんだろう。

 今はどんなことが待ち受けているかわからないけど、珍しく元気がなさそうにしているので、私はポケットに入れていたあるものを紫音に向かって投げてみた。

 紫音は片手でパシッとそれを受け取る。

「何これ、飴?」

「それは魔法の飴だよ」

「なんだそれ」

「それを舐めたら、紫音の中から罪悪感が消えます。αのせいで~、という考えが、あっという間に消えてなくなりますっ」

 飴の説明を聞いた紫音は、きょとんとした顔で私のことを見つめている。
 
 もちろんそんなのただのデタラメで、飴玉はパイナップル味の普通の飴だけど、紫音に元気を分けてあげたかったんだ。

 私は真剣な顔でこう続けた。

「私と紫音は対等だよ。これからもずっと」

「千帆……」

「“α”の紫音じゃなくて、“紫音”がαの才能を持ってるんだよ。だから、難しいこと考えすぎずに、一緒にいようよ」

 そう伝えると、紫音はしばらく黙り込んでから、私があげた飴玉をパクッと口の中に放り込んだ。

 それから、私の顔をじーっと見下ろして、「普通のパイナップル飴じゃん」とこぼした。まあ、そりゃそうなんですど。

 バレた?と頭をかきながら苦笑すると、紫音はスッと優しく目を細める。それから、ぽつりとつぶやいたのだ。

「でも、効いてきたかも」

「本当に? 間違いなくプラシーボ効果ってやつだよそれは」

「おい、あげた本人が言うなよ」

 呆れたように突っ込みながらも、紫音は優しい目をしている。

 自惚かもしれないけど、少しは元気づけてあげられたのかな?

 紫音は「じゃあな」と手を振って、飴を舐めながらその場を去っていった。

 私は紫音の後ろ姿を見ながら、彼に送った言葉を反芻してみる。

 難しいこと考えすぎずに、好きなように一緒にいたい。

 それは私が心の底から望んでいることだ。

 自分の性に振り回されずに、これからも紫音のそばにいたい。

 そのためにできることがあるなら、私はなんだってしよう。

 朝から波瀾万丈な一日たったけれど、何か大切なことに気づけた気がした。