声をかけてきたのは、碧。


昨日のことを思い出して、心臓がドクリと嫌な音を立てる。




なんで……碧はわたしに何度もキスしたのか。

昨夜たくさん泣いて、それがすごく疑問だった。
……本当の理由なんて聞けるわけないけど。



目を見ることはやっぱりできなくて、逸らせば彼はこちらに駆け寄ってきた。



「これ、お嬢のですよね?」


彼は、手に持っているものをわたしに見せる。
見せたもの、それは……白いリボンがついたヘアゴムだった。

わたしが昨日、もらったリボンがついたもの。


「えっ……ど、どこにあったの?」
「家の廊下に落ちてました。お嬢にすぐに聞こうと思ったのですが、すっかり忘れてて……すみません」


「ううん、ありがとう……」


リボンヘアゴムを彼から受け取り、「じゃあもう行くね」と彼に言う。
碧とは、今はあまり一緒にいたくない。


できるだけ、顔を見たくない。
顔を見たらどうしても思い出してしまうんだ。


碧の本当の気持ちを思い出しては、ズキズキと心が痛んで、涙が溢れそうになる。


……碧は、わたしが昨日あの話を聞いてたなんて知らない。
だから、碧の前で泣いたら心配させてしまう。


絶対に、泣きたくない。