「……おまえ、ほんとバカ」
耳に届いた声はぽつりとつぶやくような小さな声。
その声に、わたしはぱっと顔を上げる。
「……碧?」
近い距離で見つめ合う。
じっと見つめれば、彼はため息をひとつ。
それから──。
「今すぐ自分の部屋に戻ってください。さもないとキスします」
こつん、とくっつくおでことおでこ。
さらに縮まる碧との距離。
至近距離で見つめ合って、唇が触れるまであとわずか数センチ。
……碧、もうわたしにキスしたんだよ。
……やっぱりあの時寝ぼけてた?
……あれは覚えてないの?
しだいに溢れてくるのは、“悔しい”という気持ち。
いつもドキドキしているのはわたしだけ。
碧はキスしたことも覚えていなくて……やっぱりドキドキしているのはわたしだけで、悔しい。
「……っていうのはウソ──」
碧が口を開いたその時。
わたしは目の前の彼との距離をさらにつめて──……。
重なり合った、唇。