お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。



まだ後ろ姿は見える。
……でも、碧の足が速すぎて追いつかない。


なんという速さ。
そしてわたしは運動音痴だからなんという遅さ。


「碧……!」


駅の中だからあまり大きな声では呼べないが、できる限りの声を出しても気づいてもらえない。
距離はひろがっていく一方。


気づいて、と心の中で願っていれば、急にガシッと腕をつかまれて引きとめられた。


「お嬢ちゃん、ちょっといいかな」


声をかけてきたのは、メガネをかけたスーツ姿の若い男性。


「すみません、今忙しくて……」


早くしないと碧を見失ってしまう。
ぺこりと頭を下げて行こうとするが、腕を離してもらえず。


「大人しくついて来たほうがいいよ」


男性はにこりと笑いながら、着ているスーツのジャケットの内側をちらりと見せる。

ジャケットの内側には、黒くて艶のあるもの──拳銃。


わたしは、この人が危ない人だと瞬時に理解した。