「浮かない顔して、どうしたんだ?」
「えっ」


「なにかあったのか?」
「いや、な、なにも……」


気づかれてびっくり。
『なにもないよ』と返したかったが、わたしは言葉を切った。


お父さんは若頭の碧のこともよく知ってるから、あの女性がだれかも知ってるかも、と思ったから。
あの女性がなにか組と関係しているのなら、組長であるお父さんは知ってる可能性が高いだろう。


「なんでも相談にのるから、言ってごらん?」


言葉を切ったわたしを見てきて。
わたしは大きく息を吸った。


「あ、あのね、お父さん……」


声を出したはいいが、なんて言えばいいのやら。


こんなに気にしてるなんて、わたしが碧を好きって気持ちがバレちゃうかもだし……。


なにより、やっぱり聞くのは少し怖い。
『あの人は碧の彼女だよ』と言われたら泣く自信しかない。


でも……気になるものは気になる。
碧本人に聞くのは怖すぎるから、お父さんにちょっと聞いてみよう。


「碧って、彼女いると思う……?」


下を向いて、小さな声でつぶやくように言った。