『ありがとう。お母さん、おはよう』


 私も指文字をお母さんに向かい表すとメイドさんが座るように促され、椅子を引いてくれたので座る。

 私、五十嵐美央(いがらし みお)は耳が聞こえない。

 赤ちゃんの頃、高熱を出して後遺症で耳が聞こえなくなったのだ。だから普段会話をする時は、指文字か口の動きを読み取りで何を言っているのか理解する。だが、伝わらない時は筆談を使い話す。

 小さなホワイトボードを取り出して私は【おはようございます】と黒ペンで書き込む。

 お父様に私は、手を振ってこちらに視線を向けるとそのメモを見せる。


「お・は・よ・う」


 お父さんは口をゆっくり動かしながら、指文字を使い挨拶をしてくれた。だけどすぐに視線を落として、こちらを見てくれなくなった。