綺春くんは窓際の席で帰り支度をしている。
先週からもうろくに話をしていないから、毎日がどこか物足りなくて寂しい。
考え事をしているのか、窓の外をぼんやりと見つめるその姿を見て、目が合わないことにシュンと肩を落とした。
以前までは、綺春くんに軽くあしらわれながらも最終的にやさしくしてもらえることがデフォルトだった。
だから教室でも堂々と綺春くんを誘いに行けたけれど、今は距離が縮んだ分気まずくて恥ずかしくて、人目に付く場所で綺春くんのもとに行くのがちょっとだけ怖くなった。
一緒に帰ろうって誘うの、今ならまだ間に合うかな。でも、もし断られたら……。
「恋那ちゃん掃除行こー」
と、そんなことをうじうじと考えていると、同じ掃除当番の小林さん─通称こばちゃんに声をかけられた。
「あたし今日バイトあるんだぁ。早く終わらせて早く帰ろー」
「あっ、うん」
「渡り廊下遠くてだるいよねぇ」
「そだね……」
もう声をかけるタイミングはなくなってしまった。
……綺春くん、まだ帰らないでいてくれないかな。
密かにそう願って、わたしはこばちゃんとともに教室を出た。



