「……っもう帰る、」
このまま綺春くんの顔を見ていたら涙が出てきてしまいそうで、わたしはそう言って走り出した。
好きな人とマンションのお隣さんであることをこんなにも嫌だと思ったのははじめてだ。
当てもなく走り出したわたしを、綺春くんは引き止めてはくれなかった。
虚しい、悲しい、悔しいよ。
わたし、ちゃんと告白してないのに振られちゃったのかな。綺春くんにとって、わたしはやっぱり迷惑な存在だったのかな。
「ううぅ……っ」
泣きたくないのに涙が溢れ出す。
もうなんにも考えられない。
恋って苦しい。人を好きになるの────綺春くんのこと好きでいるの、もうやめたい。
「……っ綺春くんのばかぁ─────……」
本人に届くはずのない嘆きは、夕暮れの中に虚しく溶けていった。