顔は見えない。
綺春くん、今、どんな顔してるのかな。
同じだけつよく抱きしめ返される。
心臓がぎゅってなって、涙が出そうになった。
好きになってほしい、なんていうのはきっとわたしのわがままで。
もしかしたら綺春くんって……と期待してしまうのもわたしの勝手な想像で。
わかっているはずなのに、綺春くんもわたしと同じ気持ちを抱えていてくれたらいいのにと、ねがわずにはいられなかった。
「……やっぱずるいかも、おれ」
呟かれたその言葉には、聞こえないふりをする。
20分弱の間、そこにはふたりぶんの呼吸が響いていた。