『じゃああれだね、お礼だ』
「お礼?」
『本から守ってあげたんでしょ?』
「守ったというか、身体が勝手に動いてたというか」
『ま、ふつう逆シチュだけどね。そのお返しでキスしてくれたんじゃない』
お返しでキス……ありえないこともない、かも。
あのときとっさに飛びだしたのは本当に無意識だった。
堂くんのことだ。
おそらく落ちてくる本に気づいて避けることもできたはず。
それなのにわたし、飛びだして、押し倒して……あげくの果てには。
「っ、なんだか申し訳なくなってきた!今度会ったら謝ろう」
『もうそっちも夏休みでしょ?会う約束でもしてんの?』
「ううん。してない」
『じゃあ二学期まで会えないじゃん。うわーモヤモヤしたまま夏休み過ごすんだー、うわぁー』
「うっ、言わないでよぉ……」
頭を抱えるわたしに、電話の向こうでなゆちゃんがせらせら笑った。
まだ夏休みに入って1週間しか経ってない。
この調子で二学期まで待たないといけないと思うと、もやもやが一気に増したような気がした。



