「もしもし」
『ふはっなんで小声』
「あ、つい……」
声をひそめる必要はないんだ。
ここは図書室だけど、いまはわたしと堂くんのふたりしかいない。
ちいさく咳払いをしたあと、いつも通りの声にボリュームを戻した。
「どうしたの?なにかあった?」
たぶん駅のホームにいるんだろう。
向こうからは電車の音やアナウンスの声が聞こえてくる。
『あるとも言えるし、ないとも言える』
わたしは棗くんの言葉に首をかしげた。
もしかしたらそれが、電波にのって伝わってしまったのかも。
『みくるちゃんの声が聞きたかっただけ、って言ったらどうする?』
「う、あ……ありがとうって言う」
『あはは、どーもォ』
そうか、通話って用がなくてもしていいんだ。
なゆちゃんが意味のない通話をあんまり好まないから。
それになゆちゃんと通話しているときとはどこかが違うように感じた。
声の低さも、空気感も、なにもかも新鮮で。



