わたしは堂くんのカイロだし、堂くんもわたしのことをカイロだとしか思ってないから。
……なんて、言ったところで「ん?」ってなるよね。
ぽろっと零しかけた言葉を無理やり押しこむと。
棗くんはそれに代わるようにして「じゃあさ」と笑みを浮かべた。
「俺がいろんなこと教えてあげる」
「いろんなこと?」
「そう。みくるちゃんがまだ知らないようなこと、たくさん。ね?」
「わたしがまだ、知らないこと……たくさん」
なんだか魅惑的な言葉だった。
そわりと身体が疼く。
それは……放課後、カフェに行ったり?
買い食いしたり、映画を観てそのあと感想を交わしたり?
泉のようにどんどん湧き出てくる夢と憧れ。
誘惑に打ち勝つことはできなかった。
「す、好き嫌いはありません」
「ん?」
「なんでも美味しく食べます」
「え?」
聞かれてもないことを自己申告しながらスマホを差し出した。