「イエスマンのなにが悪いのか俺にはわかんないね。ノーマンより全然よくない?ていうかさー」
と言いながら柏木くんがわたしに近づいてくる。
ぐっと腕を引っぱられたと思ったら、そのまま胸の中に飛びこんでしまった。
「さんきゅ」
「んー」
頭の上で交わされる会話。
どうやらわたしの後ろに人がいたらしく、柏木くんはふたたび話に戻るようにわたしの顔をのぞき込んだ。
「俺はカッコ悪いとは思わないけどね、みくるちゃんのこと」
「え……」
「どんな状況でも笑顔でいられるって、実はなかなかできねーよ?嫌なことを引き受けるのも、それを途中で投げ出さないのもさ、誰にだってできることじゃないんだって」
なんでわたしの名前を知っているんだろうって不思議に思ってた。
同じクラスで、地味なわたしのことなんて知られてるはずがない。
そう思いこんでたけど、違ったんだ。
この人は────柏木くんは、わたしのことを見ていてくれた。
見てくれてる人が……ちゃんといたんだ。



