「おい」

「ぇ、わっ……」


呼ばれた?と思って顔をあげたら。


すぐ近くに堂くんの顔があった。

いつのまにこんな近くまで。


わたしにあわせるように腰をかがめてくれている。


びっくりして声も出ないわたしのほっぺを、堂くんが乱暴にぬぐいあげた。



「本」

「え、」

「だから、本。濡らしてもいいわけ」


そう言われて、胸に本を抱えたままだったことに気づく。

どうやらわたしの涙がぽろぽろ、本に降りそそいでいたらしい。


「だめ……」

「だったら、めそめそしてんなよ」

「……本なんか一度も読んだことないくせに」

「うっせ」