それでも大丈夫だというふうに笑ってみせたら、男の子は申し訳なさそうに立ちあがった。



「っ、ご、ごめん!ありがとうっ」


走り去っていく後ろ姿は、さながらアリスの白うさぎ。

そんな背中をわたしはぼんやりと見つめる。


なにかに熱中できる人ってすごいな。

自分にはなんの特技も趣味もない。


だからこそ尊敬すると同時に、すこしうらやましく感じた。



「はやく拾わなきゃ」


通行人はみんな迷惑そうな顔をして横をとおり過ぎていく。

邪魔にならないように、あわてて拾いはじめたときだった。



「だいじょーぶ?」

「えっ……?」


前方に落ちていたノートが、声とともにすっと上に消える。

顔をあげると、そこには立っていたのは同じクラスの男の子。


ええと、たしか名前は……




柏木(かしわぎ)くん」