廊下のど真ん中にまるで水のように広がるノートたち。



「うわーまじごめん!すぐ拾うから」

「おいなにしてんだよ、また先輩にどやされるぞ!」


遠くから切羽詰まったような声が飛んでくる。


「わかってるって!」と返した男の子はそれでもしゃがみこんで、ノートを拾いあつめようとしてくれた。




「あ……だ、大丈夫ですからっ!」

「えっ?」


突然声をあげたわたしに男の子は目をぱちくりさせる。

そんな彼に、かがんで目線をあわせた。



「ちゃんと前を見てなくてごめんなさい。わたしは大丈夫ですから、行ってください」

「でも……」


男の子はどうしたらいいか迷っているようだった。


たぶん野球部の人だ。

うちは強豪校で、上下関係がやたら厳しいと聞く。



わたしは安心させるように笑った。

ふにゃりとした頼りない笑顔にはなっていたかもしれないけど。