「優しくしてくれてありがとう」

「ははは、どういたしまして〜」


周りの目ばかりを気にして接していたあの頃がなつかしい。

もうとっくの昔のように感じられた。


棗くんがここまでして一緒にいてくれるのにはたぶん、理由があって。

わたしはその理由をわかっているつもりだった。



「なつめくん。わたし、大丈夫だよ」


棗くんが手を止めずに「んー?」と聞き返してくる。



「わたしを心配して、一緒にいてくれてるんだよね?でも大丈夫だよ。案外、慣れてきたらひとりも悪くないというか……そこまで悲しくないというか」


そこまで言ったところで、ぴたりと棗くんの手が止まった。


視線を計画書から、ゆっくりわたしへと移される。


それは、と棗くんがつぶやいた。




「……みくるちゃんが可哀想だから、俺が一緒にいてあげてる」


“可哀想”

いざはっきり言われたらちょっと心にくるものがあった。

だけどその通りだから、うんとうなずく。



そしたら棗くんはにっこり笑った。


いつもとはすこし違う、なんだか据わったような笑みに違和感をおぼえた────次の瞬間だった。







「な、わけねーだろ」