「みくる」
「っ、堂くん……」
くい、と顔を持ちあげられた。
赤くなっているであろう顔を真正面から見つめられる。
……あ、
たぶん、これ、キスされる。
そう思うやいなや、わたしは顔をそむけた。
「だめっ……人くる、から」
「だれもこねーよ、こんなとこ」
「でも……っ」
堂くんにしては優しい手つきで、顔を元の位置に戻される。
ふたたび絡み合った視線はもう……外すことはできなかった。
しずかな図書室に、吐く息さえも詰めてしまう。
ハイライトが低めの落ち着いた空間で。
いま、ふたつの影が重なろうとしていた。
無意識につかんでいた堂くんの腕。
制服越しの肌はやっぱりあたたかい。
まって、本当にキスするのっ……?
心の準備をめまぐるしく行い、わたしはぎゅっと目をつぶった。
そして──────
ガラッと遠くで音を立てたドアに、
「だ、だれか来たぁーーっ!!」
気づいたらそう叫んでいた。



